感想を語ったり普通に日記だったりするブログ。時々愚痴も出る。
語るのは主にTRPGリプレイものとサンホラと自サイト関連の話。
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エレフは再び旅の空。今度の旅には道連れがいない。
彼は今、海岸線を目指して歩いていた。船を探すためである。
レスボス島へは陸路でも行けるが、それでも海路を選んだのは師が残した助言によるものだ。
『マケドニアとトラキアが危険な状態にあるため、戦を避けるには海路が良い』と。
巷を賑わす風の噂を耳にしたのは、そんな旅路の途中で立ち寄った街の一角でのことだった。
仕事の合間の一休みなのか、男二人が道端に座り込んで談話していた。
その後ろを通り過ぎようとしたエレフの耳に二人の会話が聞こえてくる。
「おい、知ってるか? アナトリア武術大会の覇者」
「弓の名手オリオンだろ?」
聞き覚えのある名前にエレフは思わず足を止めた。
"オリオン"?
しかし男たちは後ろで立ち止まったエレフには気付かず話を続けた。
話を持ち出した男は、相方の男の方へぐっと顔を近づけた。とっておきの話とでも言うように。
「そうそのオリオン。
なんと、蝕まれし日に生まれた忌み子だからって捨てられた王子様だったらしいぜ」
「へぇ……。世の中いったいどうなっているんだか」
そう言って男は肩をすくめた。
最初に言い出した男はにやりと笑ったようだ。
「その真意は――」
「「ミラのみぞ知る」」
「ってか? ははははは……」
示し合わせたように声をはもらせると、二人は揃って笑った。
「…………」
エレフは黙ってその場を後にした。
弓の名手オリオン。オリオンという名で弓を扱う者がそう何人もいるとは思えない以上、あの時のオリオンだろう。
イリオンから共に脱走した、お調子者の少年。
あのオリオンが捨てられた王子?
…………。
「……もしそうだとしても、もう関係のない話だ」
小さくつぶやいた声はわずかに寂しさを含んでいるようにも聞こえる。
自分はミーシャを探す。オリオンは向こうでうまくやっていく。二人の道が交差することは2度とあるまい。
レスボス島を訪ねて成果がなければ、その足でアナトリアを訪ねてみるのもいいだろう。
エレフの足は宿に向かった。今日は久しぶりに布団で眠れそうだ。
海辺を目指す道すがら。舗装された街道を歩いていると、前方から足取り軽く旅人がやってきた。
茶色の髪に人懐こそうな青い目をした青年だ。
「やぁ、こんにちは。いい天気だね!」
彼は上機嫌に声をかけてきた。エレフはそうですね、と短く答えた。
エレフは何も聞いていないのに彼は元気よくしゃべり出した。
「ずっとさ、自分の人生はついてないものだと思ってたんだけど、あきらめずに頑張ってみるものだね!
最近ずっといいこと続きなんだよ! 何のトラブルもなく旅は進むし、女の子とは仲良くなれるし、ついさっきはお金を拾ってねぇ!
こうも幸運が続くと逆に怖くなるよ」
言葉と裏腹に彼はにこにこと満面の笑顔だった。本当にいいことだらけなんだろう。
それに対しエレフは何も答えない。ただ、男の顔とは僅かにずれたところを見ていた。
「君にもこの幸運がおすそ分けできればいいけどね。それじゃあ良い旅を!」
陽気に手を振ると彼は鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌で歩いていった。
その背に黒い死の影を負って。
それはイリオンで見た時と同じ影。近い将来彼は死ぬだろう。彼に残された灯は、後僅か。
嗚呼、旅人よ。死に向かって行く者。
残された季節も知らず、風は何処へ行くのか。
死期の近い旅人を見送ったエレフは、自らも歩き出した。
「今日はこの辺りで休むか」
休める場所があれば日が沈む前に確保しておいた方がいい。暗くなってからでは身動きが取れなくなるからである。
強くなってきた西日に目を細くした。暮れなずむ空は青と赤が混ざった不思議な色合いをしていた。
――嗚呼。
嗚呼、こんな日だった。こんな、秋の夕暮れ。
両親と引き離され、全てが狂い出したあの日の夕日もこんな色をしていた。
この夕日を何度見たことだろう。
秋になる度に思い出すのはミーシャの笑顔と別離の苦味。
今どこで何をしているのか。元気でいるだろうか。
次第に紺色味を帯びていく空にエレフは思いを馳せる。
この同じ空の下。そのどこかにミーシャはいるのだ。世界は繋がっている。探し続ければ、きっと見つかる。
さようならを、言ってないだろ。
ぽつりとミーシャに告げた。瞼の裏の少女へと。
また双りは出会えるから。
いや……会いに行くから。
ミーシャとまた逢えると信じて、エレフは今日も旅を続ける。
目指すは聖なる詩人の島、レスボス。
彼の"運命"が待ち受ける地。
彼は今、海岸線を目指して歩いていた。船を探すためである。
レスボス島へは陸路でも行けるが、それでも海路を選んだのは師が残した助言によるものだ。
『マケドニアとトラキアが危険な状態にあるため、戦を避けるには海路が良い』と。
巷を賑わす風の噂を耳にしたのは、そんな旅路の途中で立ち寄った街の一角でのことだった。
仕事の合間の一休みなのか、男二人が道端に座り込んで談話していた。
その後ろを通り過ぎようとしたエレフの耳に二人の会話が聞こえてくる。
「おい、知ってるか? アナトリア武術大会の覇者」
「弓の名手オリオンだろ?」
聞き覚えのある名前にエレフは思わず足を止めた。
"オリオン"?
しかし男たちは後ろで立ち止まったエレフには気付かず話を続けた。
話を持ち出した男は、相方の男の方へぐっと顔を近づけた。とっておきの話とでも言うように。
「そうそのオリオン。
なんと、蝕まれし日に生まれた忌み子だからって捨てられた王子様だったらしいぜ」
「へぇ……。世の中いったいどうなっているんだか」
そう言って男は肩をすくめた。
最初に言い出した男はにやりと笑ったようだ。
「その真意は――」
「「ミラのみぞ知る」」
「ってか? ははははは……」
示し合わせたように声をはもらせると、二人は揃って笑った。
「…………」
エレフは黙ってその場を後にした。
弓の名手オリオン。オリオンという名で弓を扱う者がそう何人もいるとは思えない以上、あの時のオリオンだろう。
イリオンから共に脱走した、お調子者の少年。
あのオリオンが捨てられた王子?
…………。
「……もしそうだとしても、もう関係のない話だ」
小さくつぶやいた声はわずかに寂しさを含んでいるようにも聞こえる。
自分はミーシャを探す。オリオンは向こうでうまくやっていく。二人の道が交差することは2度とあるまい。
レスボス島を訪ねて成果がなければ、その足でアナトリアを訪ねてみるのもいいだろう。
エレフの足は宿に向かった。今日は久しぶりに布団で眠れそうだ。
海辺を目指す道すがら。舗装された街道を歩いていると、前方から足取り軽く旅人がやってきた。
茶色の髪に人懐こそうな青い目をした青年だ。
「やぁ、こんにちは。いい天気だね!」
彼は上機嫌に声をかけてきた。エレフはそうですね、と短く答えた。
エレフは何も聞いていないのに彼は元気よくしゃべり出した。
「ずっとさ、自分の人生はついてないものだと思ってたんだけど、あきらめずに頑張ってみるものだね!
最近ずっといいこと続きなんだよ! 何のトラブルもなく旅は進むし、女の子とは仲良くなれるし、ついさっきはお金を拾ってねぇ!
こうも幸運が続くと逆に怖くなるよ」
言葉と裏腹に彼はにこにこと満面の笑顔だった。本当にいいことだらけなんだろう。
それに対しエレフは何も答えない。ただ、男の顔とは僅かにずれたところを見ていた。
「君にもこの幸運がおすそ分けできればいいけどね。それじゃあ良い旅を!」
陽気に手を振ると彼は鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌で歩いていった。
その背に黒い死の影を負って。
それはイリオンで見た時と同じ影。近い将来彼は死ぬだろう。彼に残された灯は、後僅か。
嗚呼、旅人よ。死に向かって行く者。
残された季節も知らず、風は何処へ行くのか。
死期の近い旅人を見送ったエレフは、自らも歩き出した。
「今日はこの辺りで休むか」
休める場所があれば日が沈む前に確保しておいた方がいい。暗くなってからでは身動きが取れなくなるからである。
強くなってきた西日に目を細くした。暮れなずむ空は青と赤が混ざった不思議な色合いをしていた。
――嗚呼。
嗚呼、こんな日だった。こんな、秋の夕暮れ。
両親と引き離され、全てが狂い出したあの日の夕日もこんな色をしていた。
この夕日を何度見たことだろう。
秋になる度に思い出すのはミーシャの笑顔と別離の苦味。
今どこで何をしているのか。元気でいるだろうか。
次第に紺色味を帯びていく空にエレフは思いを馳せる。
この同じ空の下。そのどこかにミーシャはいるのだ。世界は繋がっている。探し続ければ、きっと見つかる。
さようならを、言ってないだろ。
ぽつりとミーシャに告げた。瞼の裏の少女へと。
また双りは出会えるから。
いや……会いに行くから。
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目指すは聖なる詩人の島、レスボス。
彼の"運命"が待ち受ける地。
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ゲーマー猫好きひっきー体質。これはひどい。
普段自分の趣味を語らないんですが、
ネット上でくらいはっちゃけちまえ
と思いブログ開設。
TRPGリプレイについてとか
サンホラについてとか語ったり
時々愚痴も入る。人間だもの。
あ、カウンターは自作です。
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