ちょっと

哲学のような違うような話。
ひたすら会話という、自分的には初めての試み。

「また負けた」
「また勝った」
「君とじゃんけんをするといつも負ける気がするんだけど」
「そんなことはないだろう。確率的にはどちらが勝つ確率も同じなんだ」
「確率なんてものは結局、確率に過ぎないじゃないか。王様じゃんけんをやったところで、負けていく人がいつも同じ人数だとでも言うつもりかい？」
「常に同じ人数が負けたらそれこそ確率が歪んでいるだろう。物事が確率通りに動くのは無限回繰り返したトータルを眺めた場合だ。
しかし、本当にお前は俺に勝てていないとでも？」
「そうだね。いつも僕が負けてる」
「そんなことはない。３日前の昼のじゃんけんではお前が勝った」
「そうだっけ？」
「一週間前もそうだ」
「よく覚えているね、君。暇なのかい？」
「さあな。ともあれ、いつも勝者が決まっているわけじゃない。お前のそれは思い込み事象率じゃないのか？」
「なにそれ。聞いたことないけど」
「適当につけた名前だからな。既に誰かが考えているだろうから正式名称もあるんだろうが、面倒くさいからこう呼んでいる」
「……まあいいや。で、それはいったいどんな理論なのかな？」
「Ａという人物とＢという人物がいたとする。二人はじゃんけんを繰り返したが、全体的に見てＡの勝率の方が少し高かった。そこでＢは『自分はじゃんけんでいつもＡに負けている』と思い込む。じゃんけんで負ける度に、その思い込みが正しいとさらに強く思い込むことになる。無論勝てる時もあるのだが、それは例外として記憶に深く残らない。
結果としてＢはＡに勝てない記憶ばかりが残り、自分はずっと勝てないと思い込むことになる。客観的に見れば勝率が４割くらいであっても、だ」
「ふーん。でもどうだろうね。勝率が４割もあれば勝った記憶だって残っていると思うけど？」
「それをそう思えないからこんな現象が生まれるんだろう。現にお前の勝率はそんなものだ」
「そうなの？　……思い込み事象率ねぇ」
「現象名として仮に呼んでいるだけだから言いふらすなよ。確立していない自説を吹聴されるのは好かない」
「しないよ。君の話ならね。赤沼くんなら別だけど」
「そうか」
「さて。僕の思い込みを打破するために、もう一回じゃんけんしてみようか」
「いいだろう」
「じゃーんけーんぽん」

「また負けた」