感想を語ったり普通に日記だったりするブログ。時々愚痴も出る。
語るのは主にTRPGリプレイものとサンホラと自サイト関連の話。
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「お久しぶりでございます」
優雅に一礼しているのは、人目を引く青のドレスを見事に着こなした淑女(レディ)。
俺の中の何かが、小さく軋んだような気がした。
目が合った。
少女も少し驚いた顔をしていたが、すぐに笑みをこぼした。
「こんにちは」
少女は明るく言った。
しかし俺は答えることもなく目をそらした。
「私はミク」
「ミク……? この辺りの響きじゃないな」
「本当の名前は別にあるんですど、あんまり好きじゃないです。だから、ミクって呼んで欲しいです」
「カイト様カイト様、鬼ごっこしませんか?」
「……なんだよ、それ」
「一人が鬼になって、もう一人を追いかけるのです。つかまったら負けなんですよ」
「自分の城なんだから……向こうに地の利があるに決まってるよな……」
安易に承諾してしまった自分をひとしきり罵った。
「カイトはハーフェンダルツにやろうかと……」
「おぉ、そこでコネができればぜひうちのミラルドをあの……」
貴族にとって子どもは出世のための道具。結婚とはコネを作り強める手段。
かねてから自分に言い聞かせていたが、実際に自分たちの将来を決められていく様を聞いていて何も思わないはずもなかった。
結局ミクを探すのはあきらめることにした。
どうせ、放っておけば向こうもすごすごと帰ってくるだろ。
「お帰りなさーい」
……。
その時の俺は、きっと相当な間抜け面だったろうと思う。
「なんでお前がここにいるんだよ」
「だって、そろそろお茶の時間ですよ」
「鬼ごっこはどうしたって聞いてるんだ」
「鬼ごっこしていたらお茶を淹れられないです」
「これでも鬼ごっこは得意なのです。今度やっても、きっとカイト様にはつかまえられないですよ」
「どうだか。もし次があったらすぐにつかまえてやるさ」
「全然貴族の娘らしくないよな。社交界なんて出られるのか?」
「大丈夫! ちゃんと練習しているのです!」
勢いよく立ち上がると、とててっと距離を取り俺の方へ向き直った。
「ご機嫌よう、カイト様」
ちょんと少女が礼をする。それが滑稽だったから鼻で笑ったらミクはすねてしまった。
貴族らしからぬ天真爛漫な立ち振る舞い。でも、それが嫌じゃなかった。
「ミラルド=クリープトにございます。カイト様におかれましてはご健勝のこと、喜び申し上げます」
目の前の淑女が非の打ち所のない挨拶をしている。
顔を上げた彼女の表情は、貴族の娘のものだった。
「カイト様はご存知ですか? ロードル家で双子がお生まれになったそうですよ」
"ミク"が口を開くたびに。
「喉が渇きませんか? 何か冷たいものをお持ちいたしますわ」
"ミク"が俺に笑いかけるたびに。
目の前の彼女が何かをするごとに過去が崩れていく。そんな錯覚を味わっていた。
「昨日は楽しんだかしら?」
「……義姉上」
「手を出しちゃえばいいじゃない。向こうだって貴族の娘なんだから、きっともうお手つきよ」
くすくすと笑う義理の姉をきつくにらみつけた。あら怖い、と肩をすくめる。反省した様子は微塵もない。
手の中で弄んでいる瓶の中身は黒い液体。明かりに透かしてみても向こうの光が見えない。
何の気なしに言ってみたら、商人はにやりと笑うとあっさり用意してきた。貴族はそんなものだと思われているようだ。否定をするつもりはないが。
黒い囁きが俺の総てを支配する。
杯(グラス)を満たす、紅い緋い葡萄の果汁(エキス)。
片方をわざとらしく高く掲げて俺は言った。
「二人の記念すべき日に、乾杯」
道化のような言葉に、"ミク"は目を細めた。
――違う。
つ、と何かが頬を伝った。
違う。
違う……!
俺が望んでいた結末(カタチ)は、こんなんじゃない。
「つかまえて」
開かれるはずのない"ミク"の双眼が開かれた。
理解が追いつかずに硬直している俺に"ミク"が覆いかぶさった。
「なんで……」
それだけつぶやくのがやっとだった。
どうしてこいつは動いている? ワインには確かに睡眠薬を入れたのに……。
「ごめんね。私はもう、昔の無邪気な私には戻れないの」
あぁ、あぁ。
優雅に一礼しているのは、人目を引く青のドレスを見事に着こなした淑女(レディ)。
俺の中の何かが、小さく軋んだような気がした。
目が合った。
少女も少し驚いた顔をしていたが、すぐに笑みをこぼした。
「こんにちは」
少女は明るく言った。
しかし俺は答えることもなく目をそらした。
「私はミク」
「ミク……? この辺りの響きじゃないな」
「本当の名前は別にあるんですど、あんまり好きじゃないです。だから、ミクって呼んで欲しいです」
「カイト様カイト様、鬼ごっこしませんか?」
「……なんだよ、それ」
「一人が鬼になって、もう一人を追いかけるのです。つかまったら負けなんですよ」
「自分の城なんだから……向こうに地の利があるに決まってるよな……」
安易に承諾してしまった自分をひとしきり罵った。
「カイトはハーフェンダルツにやろうかと……」
「おぉ、そこでコネができればぜひうちのミラルドをあの……」
貴族にとって子どもは出世のための道具。結婚とはコネを作り強める手段。
かねてから自分に言い聞かせていたが、実際に自分たちの将来を決められていく様を聞いていて何も思わないはずもなかった。
結局ミクを探すのはあきらめることにした。
どうせ、放っておけば向こうもすごすごと帰ってくるだろ。
「お帰りなさーい」
……。
その時の俺は、きっと相当な間抜け面だったろうと思う。
「なんでお前がここにいるんだよ」
「だって、そろそろお茶の時間ですよ」
「鬼ごっこはどうしたって聞いてるんだ」
「鬼ごっこしていたらお茶を淹れられないです」
「これでも鬼ごっこは得意なのです。今度やっても、きっとカイト様にはつかまえられないですよ」
「どうだか。もし次があったらすぐにつかまえてやるさ」
「全然貴族の娘らしくないよな。社交界なんて出られるのか?」
「大丈夫! ちゃんと練習しているのです!」
勢いよく立ち上がると、とててっと距離を取り俺の方へ向き直った。
「ご機嫌よう、カイト様」
ちょんと少女が礼をする。それが滑稽だったから鼻で笑ったらミクはすねてしまった。
貴族らしからぬ天真爛漫な立ち振る舞い。でも、それが嫌じゃなかった。
「ミラルド=クリープトにございます。カイト様におかれましてはご健勝のこと、喜び申し上げます」
目の前の淑女が非の打ち所のない挨拶をしている。
顔を上げた彼女の表情は、貴族の娘のものだった。
「カイト様はご存知ですか? ロードル家で双子がお生まれになったそうですよ」
"ミク"が口を開くたびに。
「喉が渇きませんか? 何か冷たいものをお持ちいたしますわ」
"ミク"が俺に笑いかけるたびに。
目の前の彼女が何かをするごとに過去が崩れていく。そんな錯覚を味わっていた。
「昨日は楽しんだかしら?」
「……義姉上」
「手を出しちゃえばいいじゃない。向こうだって貴族の娘なんだから、きっともうお手つきよ」
くすくすと笑う義理の姉をきつくにらみつけた。あら怖い、と肩をすくめる。反省した様子は微塵もない。
手の中で弄んでいる瓶の中身は黒い液体。明かりに透かしてみても向こうの光が見えない。
何の気なしに言ってみたら、商人はにやりと笑うとあっさり用意してきた。貴族はそんなものだと思われているようだ。否定をするつもりはないが。
黒い囁きが俺の総てを支配する。
杯(グラス)を満たす、紅い緋い葡萄の果汁(エキス)。
片方をわざとらしく高く掲げて俺は言った。
「二人の記念すべき日に、乾杯」
道化のような言葉に、"ミク"は目を細めた。
――違う。
つ、と何かが頬を伝った。
違う。
違う……!
俺が望んでいた結末(カタチ)は、こんなんじゃない。
「つかまえて」
開かれるはずのない"ミク"の双眼が開かれた。
理解が追いつかずに硬直している俺に"ミク"が覆いかぶさった。
「なんで……」
それだけつぶやくのがやっとだった。
どうしてこいつは動いている? ワインには確かに睡眠薬を入れたのに……。
「ごめんね。私はもう、昔の無邪気な私には戻れないの」
あぁ、あぁ。
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プロフィール
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のみち
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学生
趣味:
パソコンいじり
自己紹介:
ゲーマー猫好きひっきー体質。これはひどい。
普段自分の趣味を語らないんですが、
ネット上でくらいはっちゃけちまえ
と思いブログ開設。
TRPGリプレイについてとか
サンホラについてとか語ったり
時々愚痴も入る。人間だもの。
あ、カウンターは自作です。
普段自分の趣味を語らないんですが、
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あ、カウンターは自作です。