つらつらと

まだ煮詰まってない世界の話を色々と書き連ねてみる。

濃紺で染めたような空には満月が浮かんでいた。その日の風が少し冷たかったことはいまでも覚えている。
丁度日付が変わる頃、それは始められた。
数人の男たちが中央のやぐらを取り囲む。彼らは祈りを捧げると、手にしたたいまつで一斉に火を放った。
紅い焔は天さえ焼かんとばかりに高く燃え上がり、夜だというのに辺りは明るくなった。
その光景を、村人全員が見守っていた。
これは、魂送り（たまおくり）という神聖な行事なのだ。


生ある者はいずれ死ぬ。それは人もまた然り。
されど人を愛した神は、人に特別な贈り物をした。
目には見えないもの。しかし見えるようになるもの。
死を以って形を得る魂。即ち、スフィア。

人が死ぬと、その体内には宝石に似たものが形成される。人はそれをスフィアと呼んでいた。
スフィアは人の魂が結晶化したものだと考えられているが、その真相はいまだにわかっていない。
形、大きさ、色、美しさ……それはまさに千差万別。一般的に、ある才に恵まれていたり優秀であったりする人間ほどそのスフィアは美しい。
スフィアは魂だと考えられている。それ故に神聖なものであり、専門の機関の人間が死者からスフィアを取り出し、管理、弔いをするのが決まりである。
しかし、スフィアの外見は美しい宝石のようである。そのために闇ルートで売買されるケースも少なくない。
また、そういった商売があるからこそ人狩りをしてスフィアを手に入れるハンターと呼ばれる存在も少なからず存在する。
とはいえ一般人にとってはやはりスフィアは神聖なものであり、金目的に人を殺しスフィアを奪うハンターは嫌われている。
ただ、昔は燃やして魂を煙に乗せて空に還すという魂送りは当たり前のことだったが、最近は大事な人の魂にはずっと傍にいて欲しいという考えが広まり、スフィアを燃やさず手元に置いておく人が増えている現状がある。管理局はこの傾向がさらに強まることを警戒している。

スフィアにはそれにまつわる様々な人種がいる。
「管理局」。死者の体からスフィアを取り出し、その取り扱いを決めて弔いまで行う機関。大事な人の魂であるスフィアを持って行かれるわけだが、遺族の要望があればなるべく希望にそってくれるので大きな軋轢はなく続いている。局長はなかなか表に出てこないが、女性だというのがもっぱらの噂。
「魂読み師」。たまよみし。生きている人を見て、その人のスフィアがどんなものであるかを読み取れる人。スフィアの大きさ、美しさは主にその人の能力に比例するので、良いスフィアを見つけ出せるということは良い人材の発掘につながるとして優秀な魂読み師は重宝される。ただし、どんな魂読み師でも完璧に読みきることはできない。
「共鳴者」。ごく一握りの数しかいないと言われている、特殊な能力を持った人。スフィアに干渉し、そのスフィアの元となった人の生前の様子を知ることができる。故人を冒涜することだとして嫌われる傾向があるが、どうしても生前のうちにあったことを知りたい遺族などにとっては助かる存在でもある。また、共鳴者に見られることを想定して遺言を残しておくケースも中にはあるらしい。
「ベレー」。スフィアを宝石と同じ物としてみなし集める人間をさす隠語。スフィアの収集家はたいていが暇な金持ち。美しいスフィアほどその売買の額ははねあがるので当然ともいえる。なお、ベレーと呼ばれるのはその昔、ひそかに売買していた金持ちと売り手が目印としてベレー帽をかぶって接触をはかっていたことが由来とされている。
「ハンター」。スフィアを狩る人間。金目的というのがだいたいである。管理局が持っていく前にハイエナのようにスフィアを奪う場合から、時に殺して強引に手に入れる場合まである。スフィアは管理局が総括するものなので、それを無視するハンターという存在は当然管理局に睨まれている。良質なスフィアを効率的に狩るために、食いっぱぐれた魂読み師と組むハンターもいる。
「ジャンク」。小さなスフィア、美しくないスフィア、あるいはスフィアができすらしない人間を軽蔑して呼ぶ言葉。スフィアは神が人に贈ったものだとされているため、それが不出来な人間は神に愛されていないクズだ、という意味でジャンクと言われる。魂読み師にジャンクだと判断された者はその後冷遇される。


他にもちょいちょいあるんですが、まあこのくらいで。