道化師って、知ってるよね。
ばかみたいなことをしてみんなに笑われるピエロ。
世の中にはさ。
ピエロを要求されて生まれる人間もいるんだ。
そうじゃないと、だめだから。壊れちゃうから。
だから涙を描かれた笑顔のお面で明るく振る舞うの。
それが、道化師。
それが――僕。
人の機嫌は天気のようだという例えを聞いた時、僕は素直に納得した。
あぁ、僕のお母さんもそういうことなんだ。
お母さんの表情はころころ変わる。
機嫌がいい時はすごくにこにこしてる。わがままを言っても許してくれる。
怒っているお母さんはすごく怖い。僕が何もしていなくても怒鳴りつけてくる。
その日もそうだった。
お母さんの眉間には深いしわが寄っている。お父さんも恐い顔をしていた。
幼い妹だけは不思議そうな顔をするだけだったけど。
僕は直感する。子ども故の素直な勘。
この空気はだめだ。なんとかしなくちゃ。
僕は立ち上がると、大声で歌いだした。
お母さんは何を言い出すのかという目を向けてくる。そのまま僕を大声でしかり始めた。
僕をひとしきり怒ったら少し気が晴れたのか、お母さんの眉間のしわははほとんどなくなっていた。
これで大丈夫。
僕が全てをかぶれば、他の『家族』は仲良くやっていける。
――悲しくない?って、もう一人の僕が聞いてくる。
悲しくないの? どうして僕がこんなことしないといけないの?
僕だってお母さんに愛されたいよ。お母さんに怒られるのは嫌だよ。
でも僕は、そうやって叫ぶ僕を黙らせる。
だめだよ。僕がやらないとだめなの。やらないと、壊れちゃうから。
幸せな家。壊れたら戻らない。なくしたものは帰ってこない。
だから繋ぎとめようと、やっきになってピエロを演じる。
楽しい。楽しい。ここは楽しいんだよ。今は幸せなんだよ。
そうやって信じれば、幸せになれる気がして。僕は何度も繰り返す。
楽しい。僕は幸せ。
――本当に?
うるさい。幸せなんだよ。
――嘘ばっかり。
黙っててよ。
――かわいそうな僕。
やめてよ。僕は幸せ……幸せなんだよ……!
自分で自分が幸せだと信じていれば、僕は不幸にならない。
それが自分を守るちっぽけなおまじないに過ぎないと。
わかってる。そんなことくらいわかってる。でも、わかりたくないんだ。
気付いたら壊れてしまう現実があるから。
僕はピエロ。滑稽な道化師。
僕は――いつまで仮面をかぶればいいんだろう――?
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普段自分の趣味を語らないんですが、
ネット上でくらいはっちゃけちまえ
と思いブログ開設。
TRPGリプレイについてとか
サンホラについてとか語ったり
時々愚痴も入る。人間だもの。
あ、カウンターは自作です。