感想を語ったり普通に日記だったりするブログ。時々愚痴も出る。
語るのは主にTRPGリプレイものとサンホラと自サイト関連の話。
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空は泣いていた。
雨に濡れながらエレフは歩いていた。歩み続けるより他にはなかった。
黙々と足を進めていたエレフが、ふと歩みを止めた。
視線の先には地に堕ちた鳥。
幼い日の自分は空を征く鳥が何よりも自由に見えた。
しかし現実はどうか。
気紛れで嵐が来れば為す術もなく地に這い蹲る運命。地に堕ち、血に濡れ、ただ朽ち果てるを待つのみだ。
鳥も決して自由などではないのだ。
重い足を引きずるエレフ。そこへ――
『ヤァ、息仔ョ』
声がした。どこかで聞いた、男の声。
聞こえているというより、頭の中で響いているように感じた。
「……!」
くらりと眩暈がしてエレフは頭を抑えた。しかし声は続く。
『失ゥコトノ堪ェ難キ痛ミニモ、モゥ慣レタカィ?』
声は愉しそうに言っていた。
両親を失い、もう一人の自分を失い。それで痛みには慣れたのかと聞いている。
何もないのだ。
何もないのだ。希望など遺されていないのだ。
もう私には――。
頭痛が治まってからふと視線をあげると、妙に青白い肌をした二人がエレフを見ていた。
いや、見ているのだろうが確信は持てない。二人は白い仮面を身に着けていたから。
しかしその出で立ちから、二人が少女であろうことは推測できた。
「……なんだ、お前達は」
見るからに年下であろう二人に対して暗い目を向ける。
二人の片方――長い髪を高い位置で一つ結びにしている少女が口を開いた。
「我ラハ主ノ命ニヨリ参リマシタ」
小さな唇が紡いだ音からは感情というものがうかがえなかった。
眉をひそめて眺めていると、二人は揃って恭しく一礼し、一本ずつ黒い剣を捧げるように差し出した。
今度は長い三つ編を後ろにたらした少女がしゃべる。
「適格者ヨ。貴方ニハ選択肢ガ有リマス。
抗ゥカ、ソレトモコノママ魂ノ死ヲ迎ェルカ」
「ドチラヲ選ブカハ貴方次第デス」
仮面の奥の瞳はエレフを試しているようだった。
沈黙の後に、エレフは思ったことを口にした。
「……お前達は双子か?」
「貴方達ノ云ゥトコロノ双子カト問ワレレバ、否ト答ェマショゥ」
「シカシ、我ラハ存在シタ時カラ共ニィマシタ」
「ならば……わかるか? 魂の片割れを奪われた、この怒りが! 絶望が!」
焦燥に似た色さえ浮かべ、エレフは叫んだ。紫色の瞳は昏い焔を宿していた。
「力を得られるというのなら――私に迷いはない」
エレフは、まっすぐに剣を取った。
それと同時に二人の姿はかき消えていた。
辺りを見回すエレフに、風に乗ってどこからか声がした。
「適格者ヨ」
「ィズレマタ」
「「約束ノ夜ニ」」
それきり少女達の声は止んだ。
――約束?
その言葉にエレフは自虐めいた冷たい笑みを浮かべた。
この世界でどんな約束ができるというのか。
護ることもできなかった。生きてまた会うという約束も果たせなかった。
死以外に。約束できることなど何もないのだ。
受け取った黒い双剣をまじまじと眺める。
不思議な材質の剣だった。鈍い輝きをもってエレフの顔を映している。
試しに振ってみる。軽い。そして、まるで長年使っていたかのようによく馴染む。
手に持っていると力が湧いてくるようだった。おのずと握る拳に力がこもる。
だが、これだけでは足りない。
いくら力があろうと、一人ではどうしようもない。
そうして顔を上げた視線の先には奴隷を抱える街があった。
「モタモタするなっ!」
男が鞭を振るう。ぴしりと嫌な音と共に奴隷の腕に傷が増えた。
月日が流れても繰り返す愚行。
「さっさと働け!」
血汐流しても止められぬ不幸。
何処へ行こうというのだ。
何故行かねばならないのだ。
鞭に打たれてうずくまった奴隷にかつての自分が重なって見える。
平等を信じていたのだろう。
理不尽を呪っているのだろう。
そして識っただろう?
平等などというのは幻想だ。
死以外の約束など、交わせやしない。
「この場で叩き殺してやろうか!」
奴隷使いが大きく腕を振り上げた。地に伏した男は死を覚悟した顔でうずくまる。
何故――
「てやあぁぁッ!」
「ぎゃっ!?」
エレフの刃が奴隷使いの背に深く突き刺さった。血を吐いて男は倒れた。
一命を取り留めた奴隷は呆然とそれを見ていた。
剣を引き抜くとエレフは天に叫んだ。
「いつまで繰り返すのだ、ミラよ!」
人間は皆運命の哀しい奴隷だというのに、その奴隷が奴隷を買うなど笑えぬ喜劇。
異変に気付いた他の奴隷使い達がエレフを取り囲んだ。エレフは紫色の瞳でそれを眺めていた。
じりじりと間合いを詰めながら、男の一人が声を上げた。
「貴様……何者ぐふっ!?」
口上など聞いてやるつもりはなかった。エレフは容赦なく男を切り捨てると次の相手に向かっていった。
恐怖に立ち竦む男達など敵ではなかった。
その場で動く者がエレフと奴隷達のみになるまでにさして時間はかからなかった。
へたり込んだ奴隷の一人がエレフを見上げ、恐る恐る声をかけた。
「あ……貴方はいったい……?」
返答の代わりにエレフは剣を突きつけた。奴隷は小さく悲鳴を上げる。金髪越しに見える目には恐怖が宿っていた。
諦めるな。
「無力な奴隷は嫌だろう?」
抗うのだ。
「剣を取る勇気があるなら、私と共に来るがいい」
それだけ言うと剣を収めて踵を返し歩きだした。
様子を伺っていた奴隷達の中にはエレフについて行く者もあれば逃げ出す者もあった。
取り残された男は己の手を見つめていた。
この手で何ができるのか。そう自問して。
心を決めた男は立ち上がり、小さくなっていく背中に叫んだ。
「お待ち下さい!」
エレフはゆっくりと振り向いた。
「私も共に戦います!
私の名はオルフェウス。どうか、私を貴方の片腕としてお使い下さい!」
頭を下げるオルフェウスを、エレフは静かに見ていた。
射抜くような視線を感じながらオルフェウスはただ待ち続けた。
「いいだろう。来い」
「あ……ありがとうございます!」
ふとオルフェウスはエレフの顔を見た。
「あ、あの……貴方のことはなんとお呼びすれば?」
「…………」
エレフは沈黙した。
エレウセイア。それは両親が愛を込めてつけた名。
自分はその愛に背くようなことをしようとしている。ならばこの名で呼ばれるのは両親に対する背きになるのではないか――。
「……捨てた」
「は?」
「名は、捨てた。好きなように呼ぶがいい」
「好きなようにと……申されても……」
オルフは困惑していたが、紫色の瞳を見てぽつりとつぶやいた。
「……アメティストス」
「何?」
「い、いえ! 珍しい目をしておられたもので……」
首を振るオルフだったが、エレフはまんざらでもなさそうだった。
「アメティストスか……いいだろう。これより私はアメティストスとなろう」
それだけ言うとアメティストスは歩き出した。オルフも慌てて後を追う。
「アメティストス様、何処へ?」
「奴隷達を解放して回る。この下らない喜劇を終わらせる為に」
後に紫眼の狼と呼ばれる男は空を睨んだ。
各地の奴隷達を解放し、アメティストス率いる部隊はその勢力を日に日に増していった。
一大勢力を築いた彼らは異民族が統べる国へと奔った。
そしてある取引の下に彼らの鉄器を入手し、来た道を戻ってゆく。
争いは止まらない。英雄達は流る星へと消えて逝く。
やがて――運命に導かれ、二匹の獣は出逢うだろう。
雨に濡れながらエレフは歩いていた。歩み続けるより他にはなかった。
黙々と足を進めていたエレフが、ふと歩みを止めた。
視線の先には地に堕ちた鳥。
幼い日の自分は空を征く鳥が何よりも自由に見えた。
しかし現実はどうか。
気紛れで嵐が来れば為す術もなく地に這い蹲る運命。地に堕ち、血に濡れ、ただ朽ち果てるを待つのみだ。
鳥も決して自由などではないのだ。
重い足を引きずるエレフ。そこへ――
『ヤァ、息仔ョ』
声がした。どこかで聞いた、男の声。
聞こえているというより、頭の中で響いているように感じた。
「……!」
くらりと眩暈がしてエレフは頭を抑えた。しかし声は続く。
『失ゥコトノ堪ェ難キ痛ミニモ、モゥ慣レタカィ?』
声は愉しそうに言っていた。
両親を失い、もう一人の自分を失い。それで痛みには慣れたのかと聞いている。
何もないのだ。
何もないのだ。希望など遺されていないのだ。
もう私には――。
頭痛が治まってからふと視線をあげると、妙に青白い肌をした二人がエレフを見ていた。
いや、見ているのだろうが確信は持てない。二人は白い仮面を身に着けていたから。
しかしその出で立ちから、二人が少女であろうことは推測できた。
「……なんだ、お前達は」
見るからに年下であろう二人に対して暗い目を向ける。
二人の片方――長い髪を高い位置で一つ結びにしている少女が口を開いた。
「我ラハ主ノ命ニヨリ参リマシタ」
小さな唇が紡いだ音からは感情というものがうかがえなかった。
眉をひそめて眺めていると、二人は揃って恭しく一礼し、一本ずつ黒い剣を捧げるように差し出した。
今度は長い三つ編を後ろにたらした少女がしゃべる。
「適格者ヨ。貴方ニハ選択肢ガ有リマス。
抗ゥカ、ソレトモコノママ魂ノ死ヲ迎ェルカ」
「ドチラヲ選ブカハ貴方次第デス」
仮面の奥の瞳はエレフを試しているようだった。
沈黙の後に、エレフは思ったことを口にした。
「……お前達は双子か?」
「貴方達ノ云ゥトコロノ双子カト問ワレレバ、否ト答ェマショゥ」
「シカシ、我ラハ存在シタ時カラ共ニィマシタ」
「ならば……わかるか? 魂の片割れを奪われた、この怒りが! 絶望が!」
焦燥に似た色さえ浮かべ、エレフは叫んだ。紫色の瞳は昏い焔を宿していた。
「力を得られるというのなら――私に迷いはない」
エレフは、まっすぐに剣を取った。
それと同時に二人の姿はかき消えていた。
辺りを見回すエレフに、風に乗ってどこからか声がした。
「適格者ヨ」
「ィズレマタ」
「「約束ノ夜ニ」」
それきり少女達の声は止んだ。
――約束?
その言葉にエレフは自虐めいた冷たい笑みを浮かべた。
この世界でどんな約束ができるというのか。
護ることもできなかった。生きてまた会うという約束も果たせなかった。
死以外に。約束できることなど何もないのだ。
受け取った黒い双剣をまじまじと眺める。
不思議な材質の剣だった。鈍い輝きをもってエレフの顔を映している。
試しに振ってみる。軽い。そして、まるで長年使っていたかのようによく馴染む。
手に持っていると力が湧いてくるようだった。おのずと握る拳に力がこもる。
だが、これだけでは足りない。
いくら力があろうと、一人ではどうしようもない。
そうして顔を上げた視線の先には奴隷を抱える街があった。
「モタモタするなっ!」
男が鞭を振るう。ぴしりと嫌な音と共に奴隷の腕に傷が増えた。
月日が流れても繰り返す愚行。
「さっさと働け!」
血汐流しても止められぬ不幸。
何処へ行こうというのだ。
何故行かねばならないのだ。
鞭に打たれてうずくまった奴隷にかつての自分が重なって見える。
平等を信じていたのだろう。
理不尽を呪っているのだろう。
そして識っただろう?
平等などというのは幻想だ。
死以外の約束など、交わせやしない。
「この場で叩き殺してやろうか!」
奴隷使いが大きく腕を振り上げた。地に伏した男は死を覚悟した顔でうずくまる。
何故――
「てやあぁぁッ!」
「ぎゃっ!?」
エレフの刃が奴隷使いの背に深く突き刺さった。血を吐いて男は倒れた。
一命を取り留めた奴隷は呆然とそれを見ていた。
剣を引き抜くとエレフは天に叫んだ。
「いつまで繰り返すのだ、ミラよ!」
人間は皆運命の哀しい奴隷だというのに、その奴隷が奴隷を買うなど笑えぬ喜劇。
異変に気付いた他の奴隷使い達がエレフを取り囲んだ。エレフは紫色の瞳でそれを眺めていた。
じりじりと間合いを詰めながら、男の一人が声を上げた。
「貴様……何者ぐふっ!?」
口上など聞いてやるつもりはなかった。エレフは容赦なく男を切り捨てると次の相手に向かっていった。
恐怖に立ち竦む男達など敵ではなかった。
その場で動く者がエレフと奴隷達のみになるまでにさして時間はかからなかった。
へたり込んだ奴隷の一人がエレフを見上げ、恐る恐る声をかけた。
「あ……貴方はいったい……?」
返答の代わりにエレフは剣を突きつけた。奴隷は小さく悲鳴を上げる。金髪越しに見える目には恐怖が宿っていた。
諦めるな。
「無力な奴隷は嫌だろう?」
抗うのだ。
「剣を取る勇気があるなら、私と共に来るがいい」
それだけ言うと剣を収めて踵を返し歩きだした。
様子を伺っていた奴隷達の中にはエレフについて行く者もあれば逃げ出す者もあった。
取り残された男は己の手を見つめていた。
この手で何ができるのか。そう自問して。
心を決めた男は立ち上がり、小さくなっていく背中に叫んだ。
「お待ち下さい!」
エレフはゆっくりと振り向いた。
「私も共に戦います!
私の名はオルフェウス。どうか、私を貴方の片腕としてお使い下さい!」
頭を下げるオルフェウスを、エレフは静かに見ていた。
射抜くような視線を感じながらオルフェウスはただ待ち続けた。
「いいだろう。来い」
「あ……ありがとうございます!」
ふとオルフェウスはエレフの顔を見た。
「あ、あの……貴方のことはなんとお呼びすれば?」
「…………」
エレフは沈黙した。
エレウセイア。それは両親が愛を込めてつけた名。
自分はその愛に背くようなことをしようとしている。ならばこの名で呼ばれるのは両親に対する背きになるのではないか――。
「……捨てた」
「は?」
「名は、捨てた。好きなように呼ぶがいい」
「好きなようにと……申されても……」
オルフは困惑していたが、紫色の瞳を見てぽつりとつぶやいた。
「……アメティストス」
「何?」
「い、いえ! 珍しい目をしておられたもので……」
首を振るオルフだったが、エレフはまんざらでもなさそうだった。
「アメティストスか……いいだろう。これより私はアメティストスとなろう」
それだけ言うとアメティストスは歩き出した。オルフも慌てて後を追う。
「アメティストス様、何処へ?」
「奴隷達を解放して回る。この下らない喜劇を終わらせる為に」
後に紫眼の狼と呼ばれる男は空を睨んだ。
各地の奴隷達を解放し、アメティストス率いる部隊はその勢力を日に日に増していった。
一大勢力を築いた彼らは異民族が統べる国へと奔った。
そしてある取引の下に彼らの鉄器を入手し、来た道を戻ってゆく。
争いは止まらない。英雄達は流る星へと消えて逝く。
やがて――運命に導かれ、二匹の獣は出逢うだろう。
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パソコンいじり
自己紹介:
ゲーマー猫好きひっきー体質。これはひどい。
普段自分の趣味を語らないんですが、
ネット上でくらいはっちゃけちまえ
と思いブログ開設。
TRPGリプレイについてとか
サンホラについてとか語ったり
時々愚痴も入る。人間だもの。
あ、カウンターは自作です。
普段自分の趣味を語らないんですが、
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と思いブログ開設。
TRPGリプレイについてとか
サンホラについてとか語ったり
時々愚痴も入る。人間だもの。
あ、カウンターは自作です。